益田柴犬による観光振興
NPO法人・日本犬益田柴犬育成会
専務理事 中山 豊
要 約
目的は、「益田柴犬による観光振興」、特に「犬」の観光地が成り立ちにくい要因を明らかにし、そして「日本犬益田柴犬」を活かした観光振興のあり方を考査することにある。
日本における動物に関連した観光地101件をみると、「猫」が44件と圧倒的に多く、有名観光地は不特定多数の動物が放し飼いにされている特徴があること、そして「犬」は18件と少なく、種の性質や狂犬病(日本国内では絶滅したため、感染することはない)の危険性から、有名観光地では成り立ちにくいことが明らかである。こうしたなか秋田県大館市は「秋田犬及び忠犬ハチ公」を主軸にした観光振興に成果を挙げ、日本初の本格的な「犬の有名観光地」となりつつある。
一方、益田市は柴犬の祖「石号」を活かした取り組みを美都町で展開し、地元住民や企業が身の丈に合った活動を行い、わずかとはいえ成果を上げている。
益田市の取り組み
◇益田市と柴犬「石号」の生誕地
益田市は島根県の西端に位置して、2020年の人口は4万5,003人、コロナ前の2019年の入込観光客数(延べ人数)は230万1,987人となっている。
益田市中心部から東へ17㎞、車で30分の山間部、美都町には、全国の柴犬のルーツといわれる「石号」の生誕地がある。
◇柴犬の概略史
柴犬は小型の日本犬であり、1936年(昭和11年)12月に国の天然記念物に指定されている。
柴犬には長野県の「信州柴」、岐阜県の「美濃柴」,山陰地方の「山陰柴」の3種類が存在する。
そして、現在の多くの柴犬につながる「信州柴」は、昭和初期の保存運動の中で、島根県益田市産の雄犬「石号」と四国産の雌犬「コロ」を交配して作られた「アカ号」の子孫が長野県へ移入し繁殖されたものを源流としている。
戦後に保存会の活動が再開され、優秀犬が出現するまでに柴犬は復活し、全国へと広がった。現在では日本犬では最も人気のある犬種である。
◇石見空港、益田市役所の取り組み
萩・石見空港では毎月第1土曜日と第3日曜日のANA725便(午前9:45)の到着便に合わせて、益田柴犬によるお出迎えをしている。石見空港ターミナルビル(株)の西松基・経営企画部長が、柴犬のルーツ「石号」が益田市に居たことを知り、地元の柴犬飼育者たちに依頼したところ、地域の飼い主により「日本犬益田柴犬育成会」(柳尾敦男会長)がNPO法人を立ち上げ、協力が実現した。同会では、益田市振興各種イベントに協力するに加えて、HP(https://npo-masudashibainu.com/)、blog(益田柴犬育成会)を立ち上げ活動している。
益田市役所では、「石号」や益田柴犬を観光や市のPRにはほとんど活用していない。市のHPでも観光スポットのコーナーに「石号の里」が紹介されているくらいである。地元企業や民間団体が主体的に活動しているので、行政主導ではなく民間と連携して情報発信、交付金などで支援している状況にある。
◇「柴犬による観光振興」その土地ならではの動物の観察や触れ合う機会を観光客に提供することによって、地域を盛り上げようとする行動」
秋田県大館市と益田市を比較
数少ない〈日本犬〉を活かした観光に取り組む自治体として秋田県大館市と益田市を比較した。
大館市は、国内外で抜群の知名度を誇る「秋田犬及び忠犬ハチ公」を主軸にした観光振興に市を挙げて取り組んでいる。放し飼いのできない犬、しかも大型の秋田犬を、観光客といかに安全に触れ合わせるかを試行錯誤しつつ、観光を秋田犬存続の一助にすべく取り組んでいる。そして活動の視野を日本全国及び海外にも向け、ターゲットを明確にして戦略的な活動を展開し成果を上げつつある。さらに「犬」を契機に大館市のみならず周辺地域を含めた経済の発展に結びつけようとしている。このように大館市は、日本初の本格的な「犬の有名観光地」となりつつある。
一方、益田市は、柴犬の祖「石号」を活かした取り組みを美都町で展開している。
しかしながら、「秋田犬」に対して「柴犬」は地名を冠しない。そこで益田柴犬育成会は,会の名称にあえて「益田柴犬」と名付けている。「ハチ公」と比較して「石号」の知名度は低く物語性も弱い。
但し、地元を知る地域住民や民間企業が、地元に相応しい身の丈に合った地域づくりを行い、わずかとはいえ着実に成果を挙げている。
特に目を引く活動は、NPO法人日本犬益田柴犬育成会の「石見空港での益田柴犬によるお出迎えイベント」である。遠くは、台湾からわざわざ益田柴犬を見に石見空港に来益した観光客もいる。
ユーチューブ動画で紹介されていたが、心温まるものを感じた。この温もりを率直に受け止め「益田柴犬による観光振興」を進めていくことが大切である。
あるいは同じ日本犬での観光地として、大館市との連携を、より強固なものしていくことも必要と考える。